四百年の恋

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 その日から福山冬悟の屋敷は、月姫の住まい同様に監視されるようになったのだが。


 冬悟は当主の弟、そして事実上の後継者として、お城でのお勤めも少なからずこなさなくてはならない。


 毎日登城の義務がある。


 そんなある日のことだった。


 「えっ、大沼(おおぬま)へ?」


 「毎年恒例ではあるがな……」


 叔父に大沼行きを告げられた。


 毎年冬雅は家臣の多くを引き連れ、領内北部にある大沼の地に視察旅行に出向くのだった。


 大沼は姫たちの居城からでも、日帰りは困難な距離。


 福山城からだとかなりの距離(直線距離で50キロ以上)があるので、毎年大がかりな視察旅行となっていた。


 「私も重臣として、当然同行せねばならぬが、殿は月姫、お前をも伴うようにとのご命令だ」


 「えっ、い、いやです。そんな……」


 視察先に連れて行かれ、何をされるか分からないため、姫は当然のことながら逃れようとした。


 「案ずるな。今回はご正室も伴われる。帝の血を引くご正室さまには、殿も頭が上がらない。そのご正室さまの目の届く範囲では、殿もお前に滅多なことはできまい」


 「……」


 冬雅が頭の上がらない正室が身近にいるならば、冬雅も強引な行動を起こそうとはしないだろうと月姫は少し安心したのだが、


 「冬悟さまは、福山城の留守居役らしい」


 叔父の言葉に、姫は不吉な予感を覚えた。


 「冬悟さまは、残られるのですか」


 「城を空けるわけにはいかないからな。誰かが残らなければならない」


 (私と冬悟さまを近くに置いておけないという、殿の策略?)


 「あと赤江どのも、冬悟さま同様留守役となった」


 (叔父上と対立関係にある赤江が、冬悟さま同様に留守居役に……)


 それもまた姫に違和感を与えたのだった。