「真姫、お前……」


 圭介は信じたくはなかったが、今目の前にいるのは愛する真姫ではなく、その前世の姿である月光姫なのだ。


 「あの地球儀が付いた引き出しは、元はといえば私のもの。冬悟(とうご)さまが京の土産にくださったものの一つ」


 当時の関係者は、福山家の兄弟の名は音読みで呼んでいたという。


 真姫も今、冬悟(ふゆさと)の名を、「とうご」と呼んだ。


 やはり圭介が恐れていたとおり、過去の思い出の品との再会により、前世の記憶が呼び覚まされてしまったらしい。


 「冬悟さまがあんなことになってしまい、その一件に関しては、誰も口にしてはいけないような風潮に。このままではなにもかもがなかったことにされてしまうと危惧した私は、冬悟さまの辞世の句を書き残したのです」


 「真姫」


 圭介の呼びかけに、真姫はゆっくりと首を振った。


 「今の私の名は、月。またの名を月光姫」


 凛とした表情で、そう答えた。


 その表情を目にした者は、誰もが事実を受け入れざるを得ないだろう。


 「ですがせっかく書き残しても、人目に付けば結局隠蔽されてしまう。秘密の場所に隠して、後世の人に伝えようと願った。なのに隠し場所であるこの置物が、殿の手に渡っていたとは・・・。中味に気づかれなかったのが幸いですが」


 つまり月光姫は、真実が隠されたまま忘れ去られそうになっている、冬悟の辞世の句とその事情を書き残し、愛用の小物入れの隠し引き出しに隠しておいたらしい。


 だがその死後、小物入れは冬雅の手に渡ってしまった。


 幸いにも文書の存在に冬雅も後世の人たちも気づかず。


 今こうやって真姫が白日の下に晒すまで、四百年もの間、眠り続けていたのだった。