「……」


 圭介は一人深呼吸をして、車内の時計を確認。


 午前二時半。


 二月の深夜は、凍えそうな寒さ。


 静かに雪が降り続く夜だった。


 車のフロントガラスに舞い降りた雪が、六角形の結晶を描いている。


 そして車の熱で、はかなく消えてゆく。


 ……。


 愛し合えば愛し合うほど、離れた時の寂しさが強まる。


 現に今も、果てしない夜の闇に同化してしまいそうなくらいに、孤独を感じている。


 そして……最大の恐怖に圭介は怯える。


 福山龍之介。


 いや福山冬悟の影だ。


 (奴はこの世から消滅したわけではない。今まで閉じ込められていた桜の木の中に、再び戻っただけなのだ)


 なぜか圭介の十字架を目にした途端、腐敗を始め、人間の姿を保てなくなった福山は、真姫のそばに居続けることを断念し、再び桜の木の中に戻っていった。


 暗く寂しい、闇の世界へ。


 だが、また何らかの衝撃で、そこから出て来ないとも限らない。


 消滅する、つまり成仏しない限りは、魂はこの地上に滞在し続けるのだろう。


 (その時奴はきっと・・・真姫に会いに来る)


 正確には、「連れ戻しに」来るだろう。


 (渡さない)


 圭介は強く誓った。


 「……」


 そしてサイドブレーキを戻し、アクセルを踏んだ。


 しばしの別離の後、朝が来ればまた真姫と会うことができる。