四百年の恋

 「まさに、悔い改めたって感じだな」


 「でしょう? 自分の傲慢さが原因で引き起こした悲劇を悔やみ、心を入れ替えたんですよ」


 確かにその通りなのかもしれないと、圭介は察した。


 (権力者としての身勝手が発端で、冬雅は弟やその最愛の姫、家臣たちを死に追いやった。やがて自らが引き起こしたことの重大さに恐れおののき悔い改め、後半生は罪を償うかのように、慈善事業にその身を捧げたのかもしれない)


 歴史書には何も書かれていないけど、圭介はそれが真実のような気がした。


 (ただ……冬雅は心を入れ替え、後に名君と称されるような人物に変貌を遂げたけど。無実の罪を着せられて、命を絶たれた冬悟のほうは?)


 そう、あの時福山龍之介なる存在は、「兄の贖罪の念が強すぎて、魂が桜の木に閉じ込められた」と語っていたのだ。


 そして四百年もの間、桜の木の中で暗く孤独な日々を送り続けた、福山冬悟の魂。


 (月光姫の生まれ変わりであるという真姫の側にいたくて、呪縛を解いて桜の木から抜け出してきたと話していたけれど。本当に真姫が月光姫?)


 「……」


 抱き合った後、自らの腕の中でぼんやりまどろんでいる真姫の顔を圭介はじっと見つめた。


 「何?」


 真姫に前世の記憶などないのだから、そんなの確かめようもない。


 (だけど、これだけは言える。真姫は今の世では「花里真姫」という一人の女であり、月光姫などではない。今の人生を幸せに過ごすべきだ。前世からの因縁や宿命などに、縛られることなく……)