四百年の恋

 オタクは持参した資料を圭介に見せた。


 丁寧にそして綺麗にプリントされている。


 それによると……。


 「冬悟の死亡時期の直後と推定される時期に、冬雅の側近であった安藤という家臣が、これまた不祥事の責任を取って自害している。彼の妻子、そして姉一家までが後を追うように自害……?」


 主君ともめた理由は、目前に迫っていた「関ヶ原の合戦」。


 その際豊臣方に付くか、徳川方に付くか。


 それを巡って、城内でも対立があったらしい。


 「どちらのグループにつくかという考え方の違いが、冬雅公と弟との対立の一因になったとも考えられます」


 そして「月光姫」という、姫の奪い合い。


 たかが女の取り合いが発端で、福山家内にはかなりの傷痕を残したようだ。


 「だけど冬雅公も、やがて自分が引き起こした悲劇の大きさを悟ったのでしょうね。一連の事件の後は、人間が変わったのですよ」


 オタクのまとめた資料によると、それまでの冬雅は名門家の三代目によくあるパターンで。


 苦労知らずの御曹司。


 贅沢で派手好き。


 富を得るために、領地周辺のアイヌ民族を弾圧して重税を課したり。


 権力を笠に着て、傍若無人な振る舞いも多かったらしい。


 ところが後半生、彼はまるで別人になったようだった。


 無駄な戦はやめ、領内の平和のために尽くし。


 文化振興に努め。


 恵まれない人々には、救いの手を差し伸べ。


 神社や寺を保護したのみならず、当時キリシタン禁止令により本州を追われてきた信者たちを、密かに受け入れたりもしたらしい。


 密かに冬雅自身も、キリスト教に入信したのではないかと噂が立ったほど。


 そして死後は、「福山家発展の礎を作った名君」として、後世に伝えられるようになった。