福山冬雅には未だに、嫡男は誕生していない。


 正室との間に、姫が一人いるのみ。


 京の生まれで、帝の血を引く名門貴族出身である正室の腹から生まれた姫君。


 その姫君に婿を迎えて、福山家を継がせるのは十分に考えられたこととはいえ……。


 「何を仰せられますか、殿。姫君はまだ子供ではありませぬか」


 「あと数年もすれば、結婚できる年齢になる」


 「それに、私とは叔父と姪との関係になります。常識的に、」


 「前例がないわけではない」


 「第一!」


 冬悟は冬雅の突然の命令に必死で抵抗した。


 一方姫は、放心状態。


 (なぜ殿は、こんなご命令を・・・? 私は冬悟さまの、側室になるしかないの?)


 すると、


 「せっかくですがそのお話、お断りいたします!」


 冬悟が大声で冬雅に告げた。


 と同時に、広間内はざわつき始めた。


 「……我が娘に何か、不足があるとでも言うのか?」


 冬雅は明らかに不快さを浮かべた表情で、冬悟を見つめた。


 「いえ、殿がこの上なく大切になさっている姫君に、何の不足もございません。ですが私にはこの月光姫、いえ月姫がおります。すでに婚約の儀も交わした間柄。今さら反故になどできません」


 そんな風に言ってもらえて、姫は嬉しくもあった。


 しかし徹底的に反論することにより、冬悟自身の立場を悪くしたりしないか、姫はそれが不安だった。


 ……その時冬雅は、信じがたい言葉を冬悟に与えたのだった。


 「私は、そなたと月姫の婚姻は、認めた覚えなどないが」


 (え……? 今、何て?)