四百年の恋

 ……。


 「やっと見つけた」


 はじめて月姫が福山冬悟と対面した際は、叔父夫婦が同行したのだが、二度三度機会を設けている間にやがて二人きりで会うようになっていった。


 「花見の宴の場で、私のいる御簾(みす)越しにお前の姿を見つけて、横にいた安藤に尋ねたんだ。すると安藤自身の親戚筋の姫と聞いて、なんて幸運なんだろうと思った」


 叔父や叔母が同席している場では時候の挨拶程度しかできなかったが、二人きりになってようやく込み入った話ができるようになった。


 「あの」


 「ん?」


 冬悟を見ていると、ふとした仕草さえ美しくて、姫は自分の平凡さが嫌になるくらいだった。


 「たくさんの贈答品が届けられましたが。私、お受けするわけにはいきません」


 「なぜ? ……その着物、思った通りとても似合っているではないか」


 姫はこの日、叔父夫婦の勧めで、冬悟からの初めての贈り物である着物を身にまとっていた。


 滑らかな生地。


 姫がこれまであまり選ばなかったような、華やかな色と柄の……。


 「大変ありがたいとは思うのですが、あんなに高価なものの数々、理由なく受け取るわけにはいきません」


 「理由か」


 冬悟は一瞬考えた。


 「お近づきの印に……との意向だったのだが」


 「……と申しますと?」


 「あんな宴の場でいきなり口説いたら、ただの酔った勢いでの誘いだと思うだろう?」


 「はい……」


 確かに冬悟の言う通り、姫は酔って絡まれたと思い、無視して立ち去ったかもしれない。


 いくらこんな素敵な御曹司からの誘いだったとしても。