「御曹司たちのたまり場をじろじろ眺めると、誘惑してきた軽い女とみなされかねません」


 「そ、それは困ります」


 「早くあちらへ戻りましょう」


 叔母に連れられ、姫はその場を足早に立ち去った。


 結局、福山城の宴は姫にとってはいささか、居心地の悪い場所にしか映らなかった。


 物語の世界に出てくるような、心踊るような場所とは少々違った様子。


 ただ一つ。


 (あの貴公子は、いったい誰だったのかしら)


 結局出会えなかった。


 (絶対見つけてみせる、なんて言ってたくせに)


 所詮はその場限りの約束なのか、とも感じた。


 あんなに美しい人ならば、他にいくらでも女の人がいるかもしれない。


 とっさの戯れだったのかもしれない。


 そう判断し忘れようと努め、姫は叔父夫婦の屋敷へと戻った。