四百年の恋

 姫は叔母に連れられ、庭園のあちこちを散策。


 池に架けられた橋を渡り、広間の近くに戻ってきた時のことだった。


 叔母が親しいご婦人方に話しかけられた。


 「姫、少しこちらで待っていてもらえますか」


 「はい」


 ……叔母を待っている間、姫は手持ちぶさたに周囲をきょろきょろ眺めていた。


 すぐ横には、城の大広間へと通じる廊下。


 その隣の部屋を見ると、御簾がかけられている。


 奥には人の気配。


 (まるで、京の御所みたい)


 源氏物語でも、御簾の奥から様子を窺う上流階級の姫君たちの描写がよく出てくる。


 (この御簾の奥にも、高貴な姫君たちがいらっしゃるのかしら)


 姫は気になって、御簾のほうをじっと見つめていた。


 どんなに目を凝らしても、御簾の奥は何も見えないのだけど。


 「姫!」


 立ち話を終えた叔母が戻ってきて、姫の手を引いてその場を立ち去った。


 「叔母上」


 「あそこに近づいてはいけません。あさましくも物色していると思われますよ」


 「何をですか?」


 「あの御簾のかけられた部屋は、福山家に連なる御曹司たちの控えの間です」


 「えーっ!」