***
翌日。
花見の宴の本祭。
月姫は朝方に福山城に入り、控え室にて待機させられた。
そして昼前に庭園内の所定の位置に、他の姫たちと一緒に並ばされた。
叔母から借りてきた琴を置き、その側に座る。
やがて合図と共に、指定された曲を奏で始める。
大規模な合奏だった。
何人もの姫君が、庭園の左右に並ばされて、琴を奏でている。
城の大広間に陣取る、福山の殿様と重臣たちの正面には、見事な桜の木々が広がっている。
琴の合奏の音色に包まれながら、散りゆく桜の花を愛でている。
(……私の琴の音色は、間違いなく他の姫君たちの音色の中に、埋没している)
姫は自らの存在を主張するかのように、琴の音色を城中に響かせようと努めるも。
他の音色に紛れ、自分の音を見失ってしまう。
(この宴の席のどこかにいるあの人には、決して届けることはできないだろう)
合奏終了後。
姫は琴を片付け、それから叔母の元に合流。
この日は叔母と行動を共にした。
「この桜は、先代の奥方さま、つまり現当主の冬雅さまの亡きお母上がお輿入れなさった際に、京よりもたらされたものですよ」
叔母が姫に教えたのは、あの桜の木。
(昨夜あの美しい男の人に会った場所だ)
由緒のある桜の木。
実母の輿入れの際に記念植樹されたものゆえ、福山の殿様はこの上なく大切になさっているらしい。
翌日。
花見の宴の本祭。
月姫は朝方に福山城に入り、控え室にて待機させられた。
そして昼前に庭園内の所定の位置に、他の姫たちと一緒に並ばされた。
叔母から借りてきた琴を置き、その側に座る。
やがて合図と共に、指定された曲を奏で始める。
大規模な合奏だった。
何人もの姫君が、庭園の左右に並ばされて、琴を奏でている。
城の大広間に陣取る、福山の殿様と重臣たちの正面には、見事な桜の木々が広がっている。
琴の合奏の音色に包まれながら、散りゆく桜の花を愛でている。
(……私の琴の音色は、間違いなく他の姫君たちの音色の中に、埋没している)
姫は自らの存在を主張するかのように、琴の音色を城中に響かせようと努めるも。
他の音色に紛れ、自分の音を見失ってしまう。
(この宴の席のどこかにいるあの人には、決して届けることはできないだろう)
合奏終了後。
姫は琴を片付け、それから叔母の元に合流。
この日は叔母と行動を共にした。
「この桜は、先代の奥方さま、つまり現当主の冬雅さまの亡きお母上がお輿入れなさった際に、京よりもたらされたものですよ」
叔母が姫に教えたのは、あの桜の木。
(昨夜あの美しい男の人に会った場所だ)
由緒のある桜の木。
実母の輿入れの際に記念植樹されたものゆえ、福山の殿様はこの上なく大切になさっているらしい。



