四百年の恋

***


 翌日。


 花見の宴の本祭。


 月姫は朝方に福山城に入り、控え室にて待機させられた。


 そして昼前に庭園内の所定の位置に、他の姫たちと一緒に並ばされた。


 叔母から借りてきた琴を置き、その側に座る。


 やがて合図と共に、指定された曲を奏で始める。


 大規模な合奏だった。


 何人もの姫君が、庭園の左右に並ばされて、琴を奏でている。


 城の大広間に陣取る、福山の殿様と重臣たちの正面には、見事な桜の木々が広がっている。


 琴の合奏の音色に包まれながら、散りゆく桜の花を愛でている。


 (……私の琴の音色は、間違いなく他の姫君たちの音色の中に、埋没している)


 姫は自らの存在を主張するかのように、琴の音色を城中に響かせようと努めるも。


 他の音色に紛れ、自分の音を見失ってしまう。


 (この宴の席のどこかにいるあの人には、決して届けることはできないだろう)


 合奏終了後。


 姫は琴を片付け、それから叔母の元に合流。


 この日は叔母と行動を共にした。


 「この桜は、先代の奥方さま、つまり現当主の冬雅さまの亡きお母上がお輿入れなさった際に、京よりもたらされたものですよ」


 叔母が姫に教えたのは、あの桜の木。


 (昨夜あの美しい男の人に会った場所だ)


 由緒のある桜の木。


 実母の輿入れの際に記念植樹されたものゆえ、福山の殿様はこの上なく大切になさっているらしい。