四百年の恋

 「……」


 突然で、そして一瞬のことだったので、姫は幻でも見ていたような気がした。


 宴の席に戻り、宴が終わるまでの間中ずっと、姫はぼーっとして過ごしていた。


 (あんな美しい男の人がいたなんて……。いったいどなただろう)


 城の関係者か、招待客か。


 そういえば誰かに「若様」と呼ばれていた。


 あの装束からしても、武家の、しかも家柄の良い御曹司であることが推測される。


 まさか、福山家の血筋の方だろうか。


 「……」


 この宴の進行役である叔父ならば、招待客全員を把握していて、あの貴公子が誰だか知っているかもしれないと姫は考えた


 だがそんなこと尋ねようものなら大騒ぎになりそうな気がして、姫はそのまま黙っていた。


 今夜の宴は前夜祭で、明日の日中に本祭がまたこの場所にて執り行われる。


 (その際探してみるか)


 探してみせるなんて約束、口先だけのものかもしれないけれど、


 (でも見つけてほしい……!)


 そんな想いに駆られる春の夜だった。