四百年の恋

 「なっ、名乗るほどの者ではありません。そういうあなたは?」


 どう見てもこの貴公子のほうが身分が高そうなのだが、姫は意地を張って聞き返した。


 「私は、月の世界からの使者」


 「は?」


 「この地上に降り、かぐや姫を探し回っていたんだ」


 「……」


 何て答えてよろしいのやら、姫は戸惑ってしまった。


 その時だった。


 「若様ー」


 遠くのほうで老人の、人を探すような声がした。


 「おっと、まずい」


 貴公子は急に顔色が変わった。


 「話の続きは、またいずれ」


 「えっ、いずれっていつですか」


 「またきっと、この宴の雑踏の中からお前を見つけてみせる」


 「え……」


 「それまでお前の仮の名前は、かぐや姫とでもしておこうか」


 「かっ、かぐや!?」


 私が上手く答えられないでいるうちに。


 その貴公子は、木々の隙間から姿を消してしまった。


 また先ほどまでのように、桜の花びらが静かに散りゆくだけだった。