四百年の恋

 「綺麗……」


 先ほど部屋の中から眺めていた、一番大きな桜の木。


 姫は一人桜の木の下に立ち、降り注いでくる花びらに感動していた。


 まるで雪。


 でも雪みたいに冷たくはないし、溶けてもしまわない。


 「おや?」


 姫は桜の根元に置かれた皿に目を留めた。


 招待客がここまで持ってきたのだろうか、だんごが残っている。


 (美味しそう……)


 空腹に耐えかねていた姫は、一口いただこうと企んだ。


 周囲に誰もいないことを確認して、そっと近づき。


 一つ、手に掴んで。


 ぱくっ。


 「うわっ」


 失敗だった。


 だんごはすでに乾燥して、硬くなっていた。


 「ごほごほ……」


 乾いただんごは残念ながら美味しいものではなく、姫は吐き出してしまった。


 その時だった。


 「どうした、毒入りだんごでも口にしたか」


 姫は背後から男性に声をかけられた。


 驚いて振り返ると……。


 とても美しい、貴公子風の男性がそこに立っていた。


 (しまった!)


 よりによって盗み食いをしているところを、見られてしまったのだ。


 おしとやかにしているように、父や叔父にも厳重に注意されていたのに。


 (この人も宴の出席者らしいけど、顔立ちからして高貴で、身分の高そうな人。


 田舎者はあさましいと、呆れられているに違いない。


 まさに穴があったら入りたい気分だった。