四百年の恋

 寒い。


 眠い。


 退屈。


 お腹減った。


 ……姫の心はずっと、そんな事柄で埋め尽くされていた。


 (お城の宴が、こんなに苦痛なものだとは知らなかった)


 気軽にお喋りのできる友達もおらず、姫は孤独だった。


 同行している叔母は、夫人仲間との交流にいそしんでいるし。


 叔父は任務で忙しい。


 姫は一人、広間の隅でぽつんと座っていた。


 当分宴は終わる気配もない。


 何よりお腹がすいていた。


 お城の料理は、美味しいのだけど量が少ない。


 上品過ぎて、全然物足りなかった。


 (隣の姫君なんか、一口つまんだだけで残している。お腹すかないのだろうか。できるならもらいたいところだけど、ここでそんなことお願いするのもはしたないので、我慢我慢)


 そ~っと。


 周囲に気づかれぬよう、姫は広間を抜け出した。


 (どうせ誰も、私になど目も留めていないのだから、心配する必要もないのだけど)


 能の舞台も終了し、庭園は静けさに包まれていた。


 と思いきや、桜を愛でる人々が庭に下り立っている。


 女一人でこんなところをウロウロするのも好ましくないので、なるべく人目に付かないように物陰から姫は庭園に入り込んだ。