四百年の恋

 すると……。


 「末席のあの方、どこの姫君かしら」


 「確か、安藤どのの血筋の方よ」


 周囲の女たちが、月姫の噂をしているようだ。


 安藤どのというのは、姫の叔父のこと。


 「安藤どののゆかりの方といっても、その親戚筋に過ぎないわよね」


 「家柄も、大したことない」 


 「ほらご覧なさい。お召し物(着物)だって地味でしょう」


 女たちはくすくす笑っていた。


 「どうせ、玉の輿狙いでこんな所にのこのこ出てきたのでしょう。おあいにくさま」


 「図々しいにもほどがあるわね」


 声を潜めて、それでいて意図的に私の耳に届くように、女たちは姫を嘲笑していたのだ。


 (……頭に来た)


 好きでこんな所に来たわけじゃないのに、なぜそんな言われ方しなければならないのかと思うと、非常に腹立たしかった。


 (まるで私が、結婚相手を物色目的で、図々しくも乗り込んできたような言われ方。悔しい!)


 でも本気で反論したら、せっかくの宴の場の雰囲気がメチャメチャになってしまうだろう。


 安藤の叔父たちにも恥をかかせてしまうことを心配し、姫は必死で中傷に耐えていた。


 身分や地位がなければこんな惨めな思いをしなければならないのだと、身に染みたのだった。