四百年の恋

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 ついに花見の宴が始まった。


 まず女性陣が宴の行なわれる大広間に通される。


 大広間の端に、家柄の順番で座らされた。


 当主・福山冬雅の家臣のゆかりの者とはいえ、家柄の低い月姫は一番奥。


 つまり末席だ。


 姫の叔父などの家臣たちが徐々に入ってきて、その次に福山家の人々。


 最後に福山冬雅公。


 殿の御前であるため、下々の者たちはひれ伏していなければならない。


 おかげで殿がどんな顔をしているのか、姫にははっきり分からなかった。


 顔を上げてからも、席が遠すぎてよく見えない。


 (当然向こうも、ここに私が座っていることなど知る由もないし、気に留めもしないのでしょうね)


 酒や料理が準備され、庭園の特設会場では能などの出し物が披露されている。


 舞台の周りを、白や桃色の可憐な花をつけた木々が包み込んでいる。


 (ああ、あれが桜か。美しいけれど儚げで、どこか物悲しい)


 ちょうど満開を過ぎ、散り始めの時期なのだろう。


 「綺麗……」


 舞い落ちる花びら。


 幻想的な光景に、姫は目を奪われていた。