今日はなんの任務もないようで、陽炎様は黒っぽい小袖に緑地に金色の細かい模様の入った帯を巻き、草色の羽織を着ていた。
「なあ、やっぱりやめようか……」
小太郎が突然、小声でそんなことを。
「今さら、なによ」
「だって、あの陽炎様だぜ。高望みしすぎだよ……」
「なんで最初からあきらめるのよ。やってみなくちゃ、わからないじゃない」
陽炎様はあんな見た目で、城下町で流行の着物をさらっと着こなしちゃって、しかも腕も確かな一流の忍。
それに比べてあたしは、一張羅の朱色の小袖一枚。
髪は長い一本の三つ編みにしているだけ。
腕は……まだまだの、くのいち。