時は、幕末。


北風が吹く山の中を、あたしは駆けぬける。

目標は、前方を走っているもののけだ。

イノシシくらいの大きさのそれのお尻には、二股に分かれたしっぽがついている。


まちがいない。猫又だ。


するどい草がひざを傷つける。

そんなの気にせず、四方から伸びている木の枝をよけて、ときには叩き折って、あたしは猫又を追いかけた。


「待ちなっ! この、もののけっ!」


胸のあわせから取り出したのは、カギ爪がついた縄。

ひゅんひゅんと振り回し、勢いをつけたそれを、猫又の背中めがけて投げた。