遥は、俺を見上げにらみ、静かな落ち着いた声で言う。
「帰って。」
「…………………。」
子どもは、おそらく今寝ているのだろうか。

俺は後ろ手で鍵を閉め、背中に背負った大きめのリュックを下ろす。
コレが俺の今の少ない荷物だ。
「今いるところを引き払ってきた。 ここで世話になりたい。」
「はい?」
遥は、怪訝な顔をして、俺を見上げる。
そのまま上がり込もうとする俺を、必死で止めてくる。
「何言ってるの?帰って。警察呼ぶよ。」
「遥。わかってるよ。俺がキチガイじみた事言ってるってのも。でも、こうするしかないんだ。」
俺は彼女をすっぽりと包み込むように抱きしめる。
遥は、力が抜けたように呆然と俺に抱きしめられたまま途方にくれた表情をする。
154センチの彼女の背丈は、185センチの俺の体格にかなうわけもなく、抵抗してもムダだと思ったのだろうか。
俺は、改めて彼女に懺悔したい気持ちになる。こんな華奢な体で 一人で子どもを産み、今まで必死にやってきた事を考えると、自分が情けなくなる。

「遥、ごめん。」
もっと強く抱きしめて、遥の体温を感じる。
「……………………。」
「…………子どもは、今、寝てるのか?」
遥はゆっくりと顔をあげて俺の顔を覗き込む。
なんで知ってるの?という表情で。

「遥、たくさん話さなきゃいけないこともあるし、俺も聞きたいことが山ほどある。
だから、俺を避けないで。」

「…………………。」

「それと、子どもにも会わせてほしい。」

遥の目からは、堰を切ったように涙が溢れ出す。
「遥すまない。本当に今まで悪かった。。。。」