俺はストーカーみたいに毎日遥のアパートに通い続けた。
昼間は目立つから、日が沈んでからだ。
近くの公園で身を潜めて遥が一人息子と住んでいるであろう部屋の明かりを見つめる。
部屋に押しかけようとしても、フェルの言葉がチラついて、どうしても勇気が出なかった。
「遥の今の幸せを壊すような事をしたり傷つけたりしたら僕は絶対に祐樹を許さない。」
フェルは、そう言った。
そして、遥とその子どもが休日に遊んでいるであろうこの公園のベンチで、考えあぐねて三時間もボーッと考え事をしたまま、また今夜もその場所を離れる。
その繰り返しだった。

龍一と話をして、やっと決心がついたのだ。
日曜日の夕方。
アパートの扉の前に立つ。
中には遥と子どもの気配がする。
俺は大きく深呼吸して、インターホンを鳴らす。
ドアののぞき穴から見て、俺だと分かったら開けてはくれないだろう。
そうしたら、どうすればいい? 不審者だと思われても、玄関前に居座るのか?
ぐるぐると考えあぐねていると、あっさりと扉が開いた。

俺も遥もびっくりした顔で、目が合う。
遥が慌てて扉を閉めようとするところを扉に脚を入れて、そのまま強引に中に滑り込む。
自分が昔演じたシーンで、こんな場面があった。それが役に立ったと気付き、苦笑する。
「あいかわらず確かめないですぐに扉を開けるからだ。危ないだろ?」
俺は遥に対して呆れていた。