それから、瀬田祐樹はこのお店が気に入ったのか、毎日通ってきた。

彼が、日本で有名な映画俳優だと気が付いたのは、彼が来て一週間くらいたってからだろうか。

いつもの決まったカウンターの席で、映画の台本を真剣に読んでいるのを見て、私がやっとピンときたのだった。

しかも最初に気が付いたのは、ゲイの同僚のフェルディノン。
「ねえ、彼は何かいつも真剣に日本語の冊子を読んでるけど、あれって何かのスクリプトじゃないの?」
そう私に聞いてきて、あ!そうだ!あの人日本の俳優さんじゃない!って、やっと気が付いたのだ。
それをお店のみんなに言うと、フェルディノンは、もう瀬田祐樹に惚れこんじゃって、彼が来るたびに舞い上がっていた。

瀬田祐樹は、苦笑して言った。
「こんなに気が付かれなかったの初めて。俺もまだまだってことだよな。」

私は、顔を真っ赤にして
「スミマセン。日本にいたときもレストランで働いていてすごく忙しかったので、部屋にテレビの無い生活していたんです。」

瀬田祐樹は、いつになくあはははと笑って
「いや、だからこのお店気に入ってたんだけどね。」

「え、じゃあ、私が気がついちゃったから、もう来てくれなくなっちゃいますか?」

「まさか。それだからって、君が態度を変えるようなことはないだろ? それに、ここのごはんうまいし。」

私はホッとして言う。
「ああ、よかった。」

この時から、本当に瀬田祐樹はこの店の常連さんとして、この店のスタッフと気の置けない関係になった。

そう、みんな、彼のような大スターが、自分のお気に入り、安らげる場所として、ここを選んでくれた事を嬉しく思っていた。