俺は初めて遥の住む部屋にあがった。
遥は小さなダイニングテーブルをベッドサイドに寄せて、反対側に椅子を置き、ラップトップや書類をザッとひとまとめにして出窓のちょっとしたスペース二置き、食事ができるように手際よく皿やナイフ、フォークを並べた。
「ゴメンね。椅子一個しかないから。瀬田さんはその椅子に座って。」
俺は素直にその椅子に座って、ゆっくりと遥のその住処を見渡し、感じる。
ビストロの上のこのアパートの狭い一室は、南側の窓が明るくて、遥の秘密基地に忍び込んだみたいで、俺はそれだけで幸せに感じた。
「居心地いいね。」
遥はあははって笑う。 「そうでしょ?」
「具合、悪いんじゃないのか?」
遥は首を振って、「もう大丈夫」と呟く。
手際よく、フェルの作ったローリキャベツや、リゾットを温めて取り分けたものをテーブルに置き、冷えた白ワインのボトルまで冷蔵庫から出してきた。
「宴会だな。俺は看病するつもりで寄ったんだけど。」と苦笑する。
「ただの寝不足だったの。いっぱい寝たら、お腹も空いたし。」
と遥はいつもの笑顔でいたずらっぽく笑う。