結局、龍一に言いくるめられて、いつものお忍びの個室で日本酒をあおっている。
「お前の作品、全部読んでみたけどさ。」
「んー。あ、そう。あんまお前には読んで欲しくなかったな。」
「なんで?」
「恥ずかしいっつうか。」
「遥ちゃん読んだのかな?」
「さあ。」
おれは目を伏せて、酒を煽る。 やっと会えたのに、もう遥の笑顔も怒った顔も泣いた顔も、手から滑り落ちるようにつかみどころがなく、何も捉える事ができない。
「あれって、ほぼ恋文じゃねえの?遥ちゃんに対する。」と龍一は笑う。
「勝手にほざけ。」
俺は殴られた左側の頬をさする。
本気で殴りやがって。 俳優業をやってたときだったら、賠償金ものだぞ。
「なににやけてるんだよ。殴られて嬉しいのか? 」
「…そうかもしんねえな。遥が俺の事で本気で怒ったり泣いたりするのがたまらなく快感。」
龍一は呆れた顔をする。
「その年で、小学生のガキみたいな事言ってんなよ。」
「あ?」
「好きな女の子いじめてますます嫌われるってやつ。」
「ああ、そういう心理か。」
俺は妙に納得して酒を流し込む。