私は、早くその場から離れたかった。
彼から目をそらし、私は鞄を掴んで部屋を出ようとする。
瀬田祐樹は、そんな私の前に立ちはだかる。
「遥。逃げないで。俺の話を聞いて欲しい。」
私は、彼をキッと睨んで、「話す事なんかない。」
「迎えに来るって言ったろ。」
「その時の雰囲気だけで言った言葉のくせに。私は、元からそんな事は信じてなかった。あの時全部瀬田さんが言ったことなんか。」
瀬田祐樹は、今まで見たことのないような傷ついた表情を見せる。
でも、これだって演技かもしれないんだ。
あの一晩だけの出来事も、私は魔法がかかったみたいに彼の甘い囁きと激しい愛撫に落ちるとこまで落ちて酔いしれた。あの瞬間だけは、誰よりも愛されていると思えたし、幸福さえ感じた。
きっと、彼と寝た女の人はみんな私と同じような感覚に落ちていたに違いない。
私も、結局、彼の沢山の中の女の一人に成り下がってしまったんだと。