私は、長い事、その額賀龍一の前で黙っていたように思う。

「彼は生きているんですか?」

「だから、それはここでは言えないって。」

もし、生きているんだったら、どんな顔をして私の前に現れるつもりなんだろう。

「私の中では、瀬田さんはもういない事になっているし。 もし、生きているなら、そう伝えてください。」

私は、そうキッパリと言う。

「ちょっと、待ってよ。」
額賀龍一は言う。

「・・・・・・。」

「ホントに、それだけの関係なの?」

「あなたは、本人からいろいろ聞いて、今私に声をかけているんじゃないんですか?」

彼はちょっと困った顔をして言う。
「俺は、何にも知らないよ。 だからさ、とにかく俺のスタジオに来てくれたら助かるんだけど。」

意味わかんないし。
「けっこうです。失礼します。」
私は、額賀龍一から目をそらし、一礼してその場を去る。

後ろから額賀龍一のため息が聞こえた。





その夜、私は眠れなかった。

記憶の奥底にしまいこんで、忘れようとしていた事がまたよみがえってくる。
瀬田佑樹。
私は何十回目かの寝返りをうつ。
消し去ろうとしても、思い出してしまう。
彼の優しくて激しい私に向けられた眼差し。
「遥。」彼の口から私の名前を何度も囁かれた。

目を閉じると、彼の身体の温もりを思い出して熱くなる。
気がつくと私の頰が濡れていた。
なんでいまさら、あんな奴のために泣いてるのよ!
腹が立って、私はベットから出る。
隣で寝ている大切な人を起こさないように。その幸せそうな寝顔にキスをして、ソッと静かに。