もう一度、あなたと…

「…き、君は…今日から出張じゃなかったか⁉︎ 」

確かめるように部長が問いただした。
怒ったような顔をしてるひかるが、足早に近付いてくる。

「…出張は別の人に行ってもらったんです。心配事があって、上司に相談したので…」

部長の前に立ち塞がった。

「相談⁉︎…誰に…」

怪しむように聞き返す。彼の言うことなんか、ちっとも信用してないみたい。


「…私にだよ。杉野君」

声がする方へ振り向いた。
渋い顔で立ってる人がいる。ついこの間、結婚式で会ったばかり。


「…僕が世話したカップルに、手を出すような事をしないでくれたまえ。杉野部長」
「せ…せせ…専務…」

部長の顔が引きつった。
東城 新(とうじょう あらた)さんは会社の専務で、私達の結婚媒酌人を引き受けて下さった方だ。

「…出張の挨拶に来た宝田君の顔が浮かなくてね。理由を聞いたら、奥さんが部署でセクハラにあってると話してくれて…」

困った様な表情で、部長を確かめる。
現場を押さえられた彼は、申し開きが出来なくなって、がくっ…と首をうな垂れた。

「しばらく謹慎しといてくれるかね。処遇については、今度の理事会で相談するから」

ぽんぽん!と肩を叩く。俗に言う『肩たたき』の現場みたいだった。


ポカン…としてしまう。
目の前に立ってた人が専務に駆け寄り、お礼を言ってる。
ホントは自分も側に行って、一緒にお礼を言わなければならない立場だけど…


(…足が…動いてくれない…)

恐いことは何もなくて、安心して良くなったと言うのに…。

(これ…現実なの…⁉︎ )


都合よく事が運び過ぎる。
せっかく現実だと思い始めた事が、なんだか嘘っぽく感じてしまう。


こんなお粗末で単純な結末……

今時…マンガでもないーーー


(これって…やっぱり夢なの……⁉︎)


専務に連れられ、部長が出て行く。
歓喜の声が上がり、社員たち喜ぶ。
押さえつけられていた者が、ひかるにお礼を言ってる。
彼は一緒に喜んで、私の側に戻って来た…。

「エリカ…」

声が遠くに感じる。
目の前にいるのに、すごく、遠い所にいるみたい……。


「良かったな。これでもう恐い思いせずに済むぞ!」

邪魔者を排除したかの様な誇らしげな顔。
望んでもいなかったことがまた起きて、夢でも見てるような気分だけど……。