もう一度、あなたと…

家に帰り、昨夜と同じ事を繰り返さないように…と、お風呂場の前で「たからがひかる」が番をした。

「もう絶対しないから!」

何度も言うのに、信じてもらえなかった。

「二度とあんな思いをするのは嫌だ!」

言い張る彼に負けて、なんとか廊下でならいいと許した。
お湯に浸かりながら、ドアの向こうで待つ「たからがひかる」のことを考える。
今朝と同じく、今夜もまた彼に誘われたら……

(ううん…それは絶対にない…)

離れて寝たほうが安心なら…とホテルをキャンセルまでしてくれた彼だ。
私が受け入れられる気持ちになるまで、きっと待っててくれる筈…。

(でも…待てなくなったらどうするの…⁉︎ )

32才の私には憶えがなくても、26才の私にはきっと憶えがあると思う。
彼との夜は…きっと一度や二度じゃない筈だから…。

お互い一晩中裸で抱き合っていたのに、拒む必要があるのかと自問する。
教会でYESと言ったのはウソだったのか…と言われても、仕方のない事だけど…。

(やっぱり…それだけはムリ。…もっと、現実だという証拠を掴まないと…)

お湯の中に顔を浸けてみる。息を止めて、じっとする。
寒い思いをしても目が覚めないのなら、苦しい思いをすれば、もしかすると目覚めるかも…と考えた。
余裕綽々でいた数秒間、泣くのを我慢する為に、同じ事をしていたことを思い出した……。




太一との離婚届を提出した夜、正確には、太一の実家で過ごした最後の夜。
10年間の結婚生活が、走馬灯の様に思い出された。
学生気分で過ごした新婚時代。
倦怠感を抱えていた5、6年目の頃。
思いきって子供を作ろう…と、頑張ってた時もあった。
でも…結局できなくて……。

原因は…太一の方にあって…。彼はそれを…とても悔しがってて…。


『また俺のせいだな…』と、小さな声で呟いた。

『子供なんかできなくてもいいじゃん!二人で仲良く生きよう!』

ショックを押し殺して励ますつもりで言った。でも…太一にはそれが一番気に入らなかったみたいで……。


…前よりも一層、殻に閉じこもる様になった。
抱き合っても擦れ合うような虚しさが募るばかりで…いつしかお互い、求めなくなった…。
たまに太一と手が触れ合う事があっても…その度にビクついて、上手く言葉が交わせなくなって……

泣きたくなって…お湯の中に顔を浸けることでごまかした。
私がどこで泣いてても…太一はきっと…気になどしなかった筈なのに……。