「愛斗くん、私――」



「莉奈、俺の言うこと静かに聞いててな?」




莉奈が要らないことを言わないように優しく微笑むと、素直な莉奈はうんうんと頷いて俺を見た。たぶん自分が置かれている状況を理解出来ていないのだろうけど。




「……1年のクセに生意気なんだよ」



「大好きな莉奈の前で本性出ちゃってますよ、服部先輩。莉奈の前ではすごく優しい先輩だったのに」




俺が薄く笑いながら指摘すると、「チッ」と舌打ちをした服部先輩は乱暴な足取りで教室を出て行った。


何も言わなかったから、きっと莉奈のことは諦めたんだろう。


とりあえず、莉奈が変なヤツに掴まらなくてよかった。




「あの……愛斗くん?」



「なに、莉奈」



「いいの?先輩、出て行っちゃったけど」



「いいんだよ。あの人は莉奈を危ない目に遭わせようとしてた悪いヤツなんだから」




きょとんとしている莉奈の顔を見るだけで、ホッとする気持ちが胸に広がっていく。

本当に、間に合ってよかった。