展覧会の作品提出締め切りまで、残り2週間を切った。

綾子との打ち合わせを重ねるほど、手ごたえは確かなものとなっていった。
展覧会の内容と伊達圭介の制作状況をどう絡めようか、それが具体的な案となって紙を埋めていく。

今まで撮影していた制作中の写真は、ある程度を現像し、白黒で載せることにした。
その方がより伊達の作品の色味を強調できるという編集長の案だ。


それ以外の記事も着々と本筋になり、『伊達圭介独占取材!』の文字は、もうすぐで手に届きそうなほど手ごたえを感じている。


いうなれば、ここ最近の仕事は充実していた。疲れても、そのだるさすら心地よく感じる。

元々は、ずっとファンだった画家の取材だ。やりがいがない訳がない。



そんなイキイキとした雰囲気を感じ取っていたのは、紛れもなく隣の綾子だった。


「先輩~、どうしたんですか、最近。なんか楽しそうですよ」


茶かすように脇腹をつつかれる。
綾子の指摘は、半分当たっていて半分間違っているのだが。



「そうかな?」アキは屈託なく笑った。



机の端には、伊達からもらったシャンパンチェアを置いてみた。


その華奢な造りの小さな椅子を見るだけで、あの時の嬉しさを反芻できる。

それだけで、良かった。


楽しかった思い出さえあれば、憂鬱な朝だって少しだけ夢見心地にしてくれる。




「桜井ー、打ち合わせやるぞー」

「はい!」


会議室へ向かう編集長に、威勢のいい返事を返してそのあとを追う。



「どうだ、作品は。間に合いそうか?」

「大丈夫です。伊達さんの制作スピードを見ても、期日に間に合います」



アキの返答に、編集長は満足そうに笑った。



「よし、んじゃあ今月のキャンバニストに、伊達圭介独占取材の予告打ってもいいな?」

「お願いします」


「いい返事だ。そこらへんも一緒に打ち合わせるぞ」

「はい!」



アキの予想正しく、それから約一週間後。作品提出締め切りの2日前。

いよいよ伊達の絵が完成したという知らせが、浮足立つ編集部へ舞い込んだのだった。