廃屋の内部は想像以上に暗かった

時折り窓に打ち付けられた板の隙間から差し込む光が
舞い上がる埃をキラキラと輝かせる

足元は腐敗した畳が
歩く度に沈み込み
フワフワとした感覚を覚える

埃と腐った畳の臭いもあり
子供心に異様な雰囲気を刻む

全員が侵入したところで
探索を始める

薄汚れた布団や木片が散乱してはいるが
二階部分には特に目ぼしいものはない

侵入口の穴から差し込む光もあり
慣れてくればそれなりに明るい

二階には三部屋あったが
壁や扉などの仕切るものはなく
ボロボロに破れたふすまがあるだけ

光は二階全体に届き
私達は少し拍子抜けしていた

『下に行ってみよう』

リーダー格の少年が先頭を歩き
私はその後ろに続いた

ギシギシと不気味な音を立てる階段を降り
一階部分へと進む

一階はさらなる暗闇だった

二階からの光もほとんど届かず
隙間から漏れる光だけが頼りだった

冒頭の噂
女性が老婆に硫酸をかけて殺したと言われていたのは
この一階にある台所だ

階段を降りてそのまま進むと
その台所はあった

私達は息を呑み
周囲を見渡すが
別段変わったところは見受けられなかった

ほっと胸を撫で下ろし
他の部屋も探索してみる

二階同様
布団や木片が散乱しているだけで
何も発見できなかった

残るは風呂場と便所

玄関横に二つの扉がある

その内の一つをリーダー格の少年が開けてみる

強い光が暗闇に慣れた目に刺さる

風呂場だった

窓は打ち付けられておらず
外の光がダイレクトに差し込んでいた

カビや錆のようなものはあるが
明るさも手伝って
ごく普通の浴室に見えた

と、その時…
バキッ!
と乾いた木が割れるような音が聞こえた

私達は一斉に走りだし
階段を駆け上がり
飛び出すように侵入してきた穴から外へと出た

『今の何!?』

『わからん!』

『なんか見た?』

『見てない!音がしただけ!』

するとまた廃屋の中から
ガタガタッ!

『なんかいる!』

ザリザリッ!
何かを引っ掻くような音

『絶対なんかいるって!』

私達は恐る恐る中を覗いてみた

暗闇の中
ぼんやりと小さな白い影のようなものが見えた

しばらく見ていると
はっきりと見えてきた

『猫…?』

『猫だね…』

『びびらせんなよもぉぉぉ!』

安堵した私達は
何故か笑いが込み上げた

『幽霊いなかったな!』

『駄菓子屋行こうぜ!』

私達は廃屋を後にした

この時の私達は忘れていた

廃屋の中で
先客と出会わなかったことを…