蘭が完二と別れたあと、完二は蘭のいなくなった廊下を見つめていた。
そして、ようやく、ある言葉を口にした。
完:「どうしたんだい、麗菜ちゃん?」
麗:「っ……」
いつもと変わらない、甘ったるい声で完二が麗菜をよんだ。
麗菜は冷や汗を流しながら、水の入ったバケツを持たせた女子たちの前に立つ。
完:「掃除かい?大変だねぇ…」
麗:「…そうよぉ?」
完二が麗菜に近づいていく。
麗菜はぐっと完二を睨み付ける。
後ろの女子たちは、状況を掴めておらず、立っているだけだ。
完:「女の子に重たいものは駄目だよ、僕に手伝わせて」
「あ、はっ、はい…ありがとう///」
麗菜の隣にいた女子が、完二の笑顔に顔を赤くする。
そして、完二はバケツを両手に持って、麗菜に聞いた。
完:「何処に持っていけばいいかなぁ?」
麗:「…教室に頼むわ、よろしくねぇ」
完二は一切笑顔を崩さず、歩いていく。
麗菜たちもそれに近づいていく。
麗:「完二くんにとってぇ、米崎さんはなんなのぉ?」
完:「蘭のことかな?」
優と争うくらいの人気を誇る完二が蘭を呼び捨てにしたことに、女子たちが舌打ちなどをする。
完二は聞こえていないのか、気にせず話を続ける。
完:「あの子は、ヴィオラの達人、全国で賞を何回も取ってるんだぁ。同じ弦楽器奏者として尊敬してるよ?」
麗:「米崎さんが…!?なるほど、そうだったの」
何か勘違いをしていたと言うように、麗菜の表情がやわらいだ。
だが、ヴィオラのことが気に食わないらしく、顔には嫉妬がうつっている。
完:「それに、蘭には手を怪我して楽器をひけなかった時、助けて貰ったことがあるんだ。…蘭が怪我なんてさせられたら、僕は耐えられる自信が無いよ」
許さないという言葉が、とても深く鋭く突き刺さる声で発せられた。
その声に、その場の全員が凍りつき足が止まる。
足音がしなくなったことに気づいてか、完二が振り返って笑った。
その笑顔は今日で一番、『作られている』ものだった。

