拓:「…米崎」
光輝がいなくなり、軽くなった拓也は、起き上がって蘭の方を向く。
その目は真剣であったので、蘭は黙って拓也を見つめ返す。
拓:「俺はな、いろんなことを学んで、感情や気持ちを知った、だからこそ後から後悔することもあるし、未だに分からないことも多くある」
蘭:『…はい』
拓:「だからこそ、生徒を無くすようなことはしたくない、いろんな感情を見せてくれるお前達が、俺には大切なんだ」
しばらくの沈黙が流れる。
ようやく蘭が、静かに問いかけた。
蘭:『それは、観察対象とですか?』
拓:「いいや、違う」
蘭よりも一回り大きな腕が、彼女を包み込む。
何とも表現しがたい温もりが、蘭の冷たい体を温めていく。
拓:「俺は、生徒を教師として守りたい、勿論、お前も大切な生徒だ」
低い、機械のような無表情の声が、蘭の耳をくすぐる。
例え、声がそうでも、その奥に熱い感情があることを蘭は悟った。
蘭:『…ふふっ、良い先生ですね』
拓:「それは、それで…照れるな」
そう言うと同時に、ギュッと拓也の腕の力が強まる。
甘い飴の臭いが、服に微かに染み付いている。
拓:「今までずっと怖かったんだ、お前がアヤカの様に消えそうで消えそうで……俺の時には教師なんて頼りになるものじゃなかったんだ…だから、俺も、そうなんじゃないかと…」
途切れ途切れに、苦しそうな、泣き出しそうな切ない声が部屋に染み渡る。
ぐっと、今まで以上に拓也の鼓動が、蘭の耳に入ってくる。
拓:「頼む…俺に、お前を守る権利をくれ…お前を一人にさせないから……」
震える声から、必死な芯の通った声が浮かび上がってくる。
拓也に抱き締められている蘭は、くぐもった声で言った。
蘭:『私には…守ってもらう価値もありませんよ?…でも、先生のこと、大好きですから、嬉しいです』
拓:「…そうか、ありがとう」
安心したような、暖かくて短い返事を返した拓也は思い付いたように聞いた。
拓:「その大好きは…教師としてか?」
蘭:『…?はい、そうですけど?』
拓:「ははっ、そうか…本当に、お前の前では感情が沢山出ている気がする」
拓:「俺は大好きだよ、お前のこと」
それから拓也は、黙って蘭を抱き締め続けた。

