『南部の子守のお腹がふくれた 胤(たね)は誰だろ 馬詰のせがれに 聞いてみろ 聞いてみろ』
思い出されるあの日の出来事。
「なぁ、父さん。
俺、辛いよ…。」
「柳太郎。
――新選組を、脱走しよう…。」
そうして、俺たち親子は新選組を抜け出した。
――――――――――
「えぇっ!?
馬詰親子が脱走!?」
「しぃぃっ。
美奈、声がおっきい!!」
そう。それはさかのぼること半刻ほど前。
後世に残る池田屋事件が終幕を迎え、私たち新撰組は屯所へ帰還した。
しばらく怪我人の手当てなどで忙しくて、屯所内が慌ただしくて気が付かなかったが、実は馬詰親子が池田屋事件の夜、脱走を図ったらしいのだ。
そして、いまだに目覚めない平助君と総司。
一日たった今、ようやく落ち着いてきたというところで発覚したこの脱走事件はとてもじゃないけど、みんな勘弁してくれよって思うこと。
でも、馬詰親子ってあれだよね。
南部のところの子守女さんと恋仲とかじゃないのー?って他の隊士さんたちに馬鹿にされてたとこの人だよね。
お父さんも、剣の使い方がさっぱりで、平隊士に使い走りされてた…。
「まぁ、周りからの風当たりが強くて、それに耐えきれなくなったってところだろうな、きっと。」
隣で永倉さんが呟く。