片桐が住むアパートは、学校から二駅離れていた。

そこまで、知らずに歩いた事実に驚いた。


「じゃあね。気をつけて」

駅まで送ってくれた片桐に、

「ありがとう」

とお礼を言った。

そして、今朝買った定期券を改札に通そうとして、

俺は動きを止めた。

「片桐」

「何?」

俺は振り返ると、携帯を取り出し、

「番号、教えてくれない」

「...」

少し間をあけて、片桐は俺に向って、手を合わせた。

「ごめん!あたし...携帯持ってないんだ」

俺は驚き、

「そ、そうなんだ」

「前は持っていたんだけど...」

声のトーンが、少し下がった。

「どうして...」

口にでてしまったけど、俺はそこで口をつむんだ。

「また...誰かを傷つけそうだから..」

俯き、呟くように言った片桐の言葉の意味を、

俺はわからなかった。



俺の学校に来る前、

片桐が誰よりも、

輝いていた時期に、

何があったのか。


それを知るのは、少し後になる。