彼女の店から、俺の家までは駅でいうと、

五つくらいあった。

途中、何度か…坂を越えないといけなかった。


最後の心臓破りの坂を上りきった時、

音楽で、突き動かされた俺のガソリンは切れた。



「何してるの?」

自転車に股がりながら、激しく息をする俺の横に、

金髪になる前の美佳が不思議にそうな顔をして、立っていた。



そうだ。

その時…、

俺は美佳に、音楽の素晴らしさを語ったんだ。


一曲しか聴いてないのに…。

当時ピアノを習っていた美佳に、

無知にも音楽の良さを語ったのだ。


今思えば、

虚しさと悲しさを、たった一瞬の感動で、

誤魔化していたんだろう。

あまりにも、必死な誤魔化は、

美佳の心を動かしてしまった。

美佳はピアノを辞め、ドラマーになったのだから。