バックで叩きながら、美佳は涙していた。


俺の歌は…明らかに練習より上手かった。

その理由は、簡単だった。

その歌を聴かせたい人物がいるからだ。

温かく…素直な歌声は、さっきまでのバンド達にもなかったものだった。

目立つ為や、楽しみたい、聴かせたいではない。

聴いてほしい。


そこは、押し付けがましい気持ちはなかった。


(本当に…好きなんだ)

美佳はミュージシャンとして、ドラムは叩き続けたけど、橘美佳としては…目をそらしていた。

我慢できない。


一曲でよかった。


それ以上は叩けなかった。

絶対に。