「ふぅ〜」

大きく息を吐き出すと、俺はお腹に手を当てた。

腹式呼吸はできている。

喉だけの発声ならば、演奏に勝てない。


俺の声を客席にいる片桐に、届けなければならない。

悲しみを…幸せに変える歌を。


バンドの演奏は、ほぼ時間通り進行している。


俺は控え室を出て、ステージ横の扉の前に立った。

こちらからは、関係者以外入れませんと書かれている張り紙を見つめ、

少しだけ扉を開けた。

美佳のドラムが、俺の出番の前の曲のエンドロームを叩いていた。

「いくか」

一気に扉を開けると、俺はステージを目指した。

観客席は見ない。

まずは、ステージに立つこと。

その前に、キョロキョロしたらみっともない。

美佳のドラムが終わると同時に、ステージに立った。