前のメンバーとの入れ替え途中、シンバルの位置などを叩きやすいように調整していた美佳の目に、

観客席に座った片桐の姿が映った。

先ほどよりかなり、前に座っていた。

「フン」

美佳は、軽く鼻を鳴らした。




「え!」

自分達より前に座った片桐を見て、総司はすっとんきょうな声を出した。

前に座ったことより、片桐がわざわざライブに来ていることに驚いていた。


「始まるぞ」

総司の隣に座る正利が、総司の肩を叩くと、ステージに集中するように促した。

「あっ…うん」

総司は頷くと、ステージに視線を向けた。

正利は頬杖をつきながら、一瞬だけ片桐を見たが、何も言わなかった。


「1、2、3、4!」

美佳がスティックでカウントすると、演奏が始まった。

それは、俺の出番までのカウントダウンでもあった。