「今から本番のボーカリストが、こんなところで…ぼおっとしてるなんて…」

片桐は渡り廊下の手摺にもたれると、 頬杖をつき、

「余裕ですな」

笑顔を向けた。


「よ、余裕なんて…ないよ」

俺は、普段と変わらない片桐をじっと見つめた。

俺の視線を感じ、片桐は自分の体を確認した。

「何か…ついてる?」


埃でもついてるのかと、全身をチェックする片桐に、

俺はため息をつき、

「制服…。休みなのに…」

見に来てくれると思っていたけど…

だとしたら、私服だろと期待していた俺の思いは、砕け散った。