「総司…」



「…だとしても!」

総司は、俺の手から強引に拳を抜くと、ふらつきながら、後ろ足で俺から離れ、

「許せない!」

先程より強く俺を睨んだ。

「総司…」

「あんな女のせいで…」

総司は、唇を噛み締め、

「太一のせいで!」

拳を握り締め、

「美佳が傷つくことは許せない!」

絶叫した。


そして、今度は…殴りかかることなく、

総司は俺に背を向けて、走り出した。


「総司!」

もう俺の方を、振り返ることはなかった。


なぜならば、握り締めた拳は…俺だけでなく、自分に対してもだったからだ。


誰を殴っても、どうしょうもない拳を握り締めながら、総司はその場から走り去った。