そんなこんなで何の進展もないままデザートを食べ終え、アオイがペーパーナプキンを手に取った。彼女がそれで口元を拭う前に、俺はとっさに手を伸ばす。

「クリーム、ついてる」

 そうして親指の先でそっと彼女の唇をなぞった。柔らかくて艶のあるサクランボのような唇だ。

「あ、ごめん」

 アオイが恥ずかしそうに頬を染めて俺の指をペーパーナプキンで拭こうとするので、そうされる前に俺は親指をペロリと舐めた。とたんに彼女の耳まで朱に染まる。

「コウタってば……」
「何?」
「ううん……」

 彼女が顔を伏せたので、表情はわからなくなってしまった。

 俺、そんなに彼女が恥ずかしがるようなことをしてしまったんだろうか。

 なんだか空回りばかりしている気がしてきた。アオイの心をタツキから奪う努力なんて、何もできてない気がする。


 結局その日も彼女との距離を縮められなかったようだ。でも、彼女が「すごく楽しかった」って笑顔で言ってくれたからよしとしよう。焦ってはいけないことだけはわかるから。六年待ったのに、あわてて関係を進めようとしてすべてを台無しにしたくはない。それくらい、俺にとって彼女は特別で大切な人だから。