キミの心を奪いたいんだ。

「あ、迷惑だったらやめるけど」

 アオイが申し訳なさそうに言うので、俺はあわてて首を振る。

「迷惑なんてとんでもない。来てくれたらすごく嬉しい」
「よかった」

 アオイがにっこり笑った。芯の強さを垣間見せる瞳、上気した頬、優しい口元。すべて俺のものにしたい。手を伸ばして触れたい。

 いや、今は汗臭いからダメだな。

 そんなことを思って自制していると、アオイが手に持っていた小さな紙袋を持ち上げた。

「レモンの蜂蜜漬け、食べる?」
「作ってきてくれたの?」
「うん。よかったらコーチのみなさんで食べて」
「ありがとう」

 本当は一人で全部食べたいけど、なんて不届きなことを思いながら受け取った。

「お口に合うといいんだけど」
「合うよ。絶対に合う」

 俺の言葉に、アオイがホッとしたような笑みを浮かべる。俺と一緒にいて彼女が笑ってくれることが増えた気がする。

「全部食べるからね」

 俺の言葉を聞いてアオイの笑顔が大きくなる。

 そう、全部食べたいんだ。本当だよ。何もかも俺のものにしたい。キミの心を丸ごと奪いたいんだ。ねえ、本当にそう思ってるんだよ。