キミの心を奪いたいんだ。

 俺がプロサッカー選手を諦めた経緯を教室で説明したことはないので、シュウトにそう思われても不思議はない。無邪気な子どもの言葉だというのはわかっている。それでも、とっくに吹っ切ったつもりだったのに、タツキと比べられたせいか、胸にチクリと何かが刺さったような気がした。

 何も言えないでいると、すぐ後ろから少し高い柔らかな女性の声が聞こえてきた。

「コウタコーチはみんなに教えることが好きだから、子どもサッカー教室のコーチになることを選んだんだよ。教えるプロになったの」

 振り返るとアオイがいて、俺を見てはにかんだように微笑んだ。その笑みに、胸に刺さった氷の破片が溶けていく。

「あー、もしかしてコーチの彼女ぉ?」

 シュウトのからかうような声に、俺はあわてる。

「な、何言ってんだ。幼馴染みだよ」
「なーんだ、つまんないの。じゃ、コーチ、また来週ねー」

 それだけ言うと、シュウトは迎えに来た母親のところに走っていった。やれやれ、とため息をついて、俺はアオイを見た。

「見に来てくれたんだ」
「うん。昨日のドライブのとき、今日はサッカー教室があるって言ってたから、一度見てみたいと思ったの」