「んぅ……よく寝たあ……」
むにゃむにゃと愛結が口の中を動かしながら言う。
背伸びをすれば、ベッドから起き上がる。
「悠ちゃんっ、おはよっ」
「ん、おはよ」
最近、悠人は休みでも学校があっても愛結より起きるのが早い。
悠人は自分の部屋で寝るのが好きではなく、いつも愛結の部屋のとなりにある物置で寝ている。
これは、五年生を過ぎてからだが。
「今日は三つ目だねっ、頑張って全部回りたいねっ」
ふにゃりと相変わらず緩い笑みを浮かべて幸せそうに言う愛結。
それに対し、悠人の反応もいつもとかわりない。
「あぁ。じゃあ、向かうか」
悠人がにこりと微笑む。
愛結は悠人の冷たい手に包み込まれる。
「悠ちゃんの手、冷たいね……でも、手が冷たい人はね心が温かいんだよ!!」
愛結が自慢げに悠人に言えば“ありがとな”と笑いながら言う。
「愛結……悠人、いるの?」
物置で二人で喋っていれば、母の声が物置の扉越しに聞こえる。
「うん……」
無視することはなく、素直に答える。
「愛結……それは本当なのか……?」
物置に母が入ってくれば、父も同時に入ってくる。
父の問いに対してもこくんと頷いてから返事をする。
「ここ、ここにいるの。悠ちゃんのこと、どうして見えないふりするの?悠ちゃんはここにいるのに……」
「愛結……だから「あぁ。悪い……パパな、視力が下がったんだな」」
母が何かを言おうとすれば、父がそれを遮った。
悠人は驚いた表情をしている。
愛結は満足そうに微笑み、父の方をにこにこと機嫌よさそうにして見る。
しばらくすれば、二人は部屋から出ていった。
愛結と悠人も同じように部屋から出て、三つ目の神社へ向かった。