俺の言葉を聞いて、亜子は笑い出した。
「冗談きついですよ⁇あははっ」
冗談じゃないんだ、亜子。
「ちっ」
小さく舌打ちをすると、亜子は笑うのをやめた。
そんな亜子を見て、俺は前亜子が住んでいた家に向かった。
「おい、この家に見覚えはあるか⁇」
誰の家ですか⁇
そう言われ、また他の場所に移動した。
そんなことを何回も繰り返した。
亜子の家、慎也の家、よくいったお店、パスタ屋、天音にも会わせたし、莉乃にも会わせた。
でも、亜子は何ひとつ思い出してくれなかった。
太陽も沈み、もうだいぶ暗くなった。
「お前、今日どうすんの⁇」
「もう北海道に帰ります。」
「…は⁇」
もう、帰んのか⁇
こいつ、日帰りで東京まで来たのか⁇
「早く帰らないと、お母さんが待ってるので」
「あ、あぁ、そっか」
わざわざ止める必要もないと思い、俺は空港まで亜子を送った。
「わぁ〜、このベンチ、懐かしいなあ」
空港内にある、ベンチ。
亜子はそこに座った。
ん…⁇
懐かしい…⁇
「亜子、この空港知ってんのか⁇」
「ううん、知らない。ただ、見覚えがある気がするの」
だろうな
お前が北海道に行くとき、この空港まで皆で見送ったからな。
そして亜子は、迷うことなくベンチに座った。
そのベンチ…
最後に亜子と慎也を二人きりにさせようとして座らせたベンチだ。


