「だ、だいじょぶ……。びっくりしただけ」
「そっか。ま、あの人あんなだけど悪い人じゃないから。
いい会社に勤めてるから根っこは真面目でハメも外さないし」
シンタくんは私の髪をクシャクシャとしてから手を離した。
「うん……。私こそごめんね?
仕事の邪魔しちゃったね。もう帰るから」
席を立った時から握ったままだったバックを軽く持ち上げてみせると、シンタくんは眉を潜めた。
「お迎えは?」
「へ?何それ」
首を傾げる私にシンタくんも同じようにして
「清海かウメちゃんと待ち合わせてるんじゃないの?」
ウメちゃんとは、兄の婚約者の梅田踊子(ウメダヨウコ)さん。
2人とも川越に住んでいて、5月の連休には踊子さんが兄のマンションに引っ越して同棲を始めることになっている。
「してないよ。
だって、2人とも新しい仕事始めたばかりでそんな暇ないもん。
踊子さんなんて、今日まで会社の施設にカンヅメで研修だって」
「おい…… 」
私の話を聞いたシンタくんが大きなため息をついた。

