「そうじゃなくて。
だって、私にはさ……」
こうしてそばに来れたのだから、思いきってもう少し具体的に気持ちを伝えるかと私が覚悟を決めた時……。
「シンタくーん。久し振りー」
お店のドアがカラコロンと鳴って、二人組の女性客が入ってきた……。
「あー、本当に久し振りですね。
いらっしゃいませ」
瞬時にマスターの顔つきに戻って立ち上がるシンタくんに、私の話は宙ぶらりんのまま終わってしまう。
「随分ご無沙汰でしたよね?」
「ごめんねー?年度末に新年度だったからさ。
ずっと仕事漬けでストレス溜まりまくってるよー」
「今日はもう我慢の限界にきたから仕事放り出してきちゃった。
今日は飲むからねー」
「ハハハ。じゃあ今夜は目一杯サービスしますね」
ついさっきまで独り占めだったシンタくんがあっという間に横取りされてしまう。
すぐ後ろのテーブルで交わされる大人の会話に孤独感を感じながら、私はピンクのカクテルを飲み干した。

