まだまだこれから……?
既に幸福の飽和状態に陥った私をシンタくんは次の場所へと誘う。
「はい。座って」
カウンター席のちょうど真ん中のスツールを引いてくれた。
私がちょこんと腰掛けたのを確認すると間を1つ空けたスツールにカーキのダウンを引っかけて、中に着ていたグレーのクルーネックセーターの袖を捲りながらカウンターの中に入っていくシンタくん。
「でもねー、千波のこと話した時、佐藤さんたち変なこと言ってた」
話しながら手際よく棚から瓶を取り出して並べていく。
「変なことって?」
私も着ていたオフホワイトのコートを脱いで左隣のスツールに畳んで置いた。
カウンターに両肘をついてシンタくんの動きをじっと見つめる。
「俺って、いつから8人兄弟になったの?」
ガタッ。
漫画みたいに肘がカウンターから落ちそうになった。
「う、うえっ?!」
そんな私の反応に動じることなくシェイカーの中に氷を放り込み
「営業的にこれからも自分が一人っ子だっていうことはなるべく伏せていこうと思うんだけどさ。
まさか、8人兄弟の3番目になるとはね。
弟5人ってすごいよね」
「……ハ、ハハ……。すごい …ね」
ゆっくりとシェイカーを振りだしたシンタくんの前で私は顔をひきつらせるしかなかった。
佐藤さんたち、そんなこと覚えてたんだ……。

