入り口で佇んで一通り見回してみる。
店内は、シンタくんの言う通りあまり変わっていなかった。
ただ、観葉植物の配置を変えてテーブル席が増えていた。
集客に力を入れるって本気なんだ……。
「千波、こっち」
戸惑う私に気付かないのか、シンタくんが楽しそうに手招きをする。
窓際の隅に2つのイーゼル。
柿本さんのもうひとつの作品らしい。
っていうか2つなんだけど。
心の中で突っ込みながらそのイーゼルの前まで歩いていった。
2つのイーゼルはくっつけるようにして置かれていて、1枚の白い布で覆われていた。
シンタくんが私にまた得意気に微笑みかけた後、布を取り去った。
「わぁ……」
一言しかでない。
それ以上の言葉が浮かばない。
私は目の前の絵に圧倒されてしまった。
2枚の絵はよく似ていた。
どちらも明るい黄緑色の草原が描かれている。
ふかふかで柔らかそうな緑の中にピンクや橙色の花(多分ポピーだと思う)が咲き乱れていた。
そして、その草原の下の方には1列に並んで歩く子豚たちの黒いシルエット。
1枚の絵は子豚のシルエットのみだが、2枚目はそれに三角屋根の家のシルエットが書き足されていて、豚さんたちはその家に帰ろうとしているようだ。
そうか、この絵は繋がっていてひとつの作品なんだ。
絵には温度があった。
見てるだけで心がぽかぽかしてくる。
その暖かさが心地よくて、いつまででも見つめていたいと思った。