2人で手を繋いだまま乗り込んだ電車は思っていたより混みあっていた。
バレンタインデーということもあって車内はカップルの姿が目立つような気がする。
幸せそうに甘い雰囲気を纏う恋人たち。
『羨ましいな』と無意識に思ったけど、今は私もそのカップルたちと何ら変わらないんだと気付いたら何だか泣きそうになった。
「仕事終わりにデートして、明日もあるからそろそろ帰るか…って時間だよね、ちょうど」
シンタくんが空いている方の手で自分の首の後ろを擦りながら呟いて、私の手を引いたまま人を掻き分けて空いているスペースを探す。
発車前の電車の座席は全部埋まっていて、通路のつり革も既に殆どが誰かの手に握られていた。
「ここでいいか」
シンタくんが立ち止まったスペースは、2人が立つには十分だけどつり革は1人分。
「千波は俺にしっかり掴まってろよ?
この電車、はじめのうちはけっこう揺れるからな」
「何か恥ずかしいんだけど…」
当たり前のように肩を抱き寄せられて、
一瞬にしてカチコチに固まった私をシンタくんが笑う。
「今からそんなに緊張してどうするの?」
耳元で囁かれて首を竦めたところで電車のドアがプシューッと音をたてて閉まった。

